「揺るぎない音楽への感覚を」対談:あらかじめ決められた恋人たちへ・池永正二×林整骨院・林世詩成

活動23周年を迎えた叙情派インストDUBバンド・あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二と、整骨院×音楽祭という異色の組み合わせを実現させた林整骨院音楽祭を主宰する林世詩成の対談が2年ぶりに実現。この対談は2020年10月14日(水)にZoomにて開催されたもの。

「これからの音楽」について2人が素直な言葉で自由に語り尽くす。

文:ヨコザワカイト


 

■だからこそ必要な場所

 

2018年林整骨院音楽祭より(photo by 武田政弘)

池永:久しぶりですね、2人で話すのは。

林:今年の2月のライヴ〈あら恋レコ発ワンマンライヴ『……』Dubbing XI 〉を見させてもらったきりで、あの時は大阪の時は打ち上げにも参加させてもらって。

池永:あの日って大阪のライヴハウスで感染者が出たのと同じ日でしたよね?

林:そうなんです。新聞でも大きく報道されたので覚えていて。僕が住む栃木ってやっぱり田舎なので、すぐに噂が広がるんですよ。東京よりも感染者がずっと少ない時期だったので、その人がすごく目立っちゃって。ネットも炎上していたし「ライヴハウス=悪」っていう構造が出来てしまったなと。

池永:ライブハウスは大手を振って素晴らしい場所かと言われればそうじゃないかもしれないですが、だからこそ必要な場所で。決して悪ではないよ。そんな清潔で正しい場所ばかりの社会ってそれこそディストピアだと思う。そこまで目くじら立てなくてもね。テレビ局で感染者が出ても、どの局も閉鎖しないどころか、閉鎖しろって風潮さえもなかったでしょ。ライブハウスは全部閉鎖。みんなテレビ観るし、僕も観るんで仕方ないとは思うんですが、なんかすごく象徴的だと思う。

林:でも、僕この自粛期間でかなり変わったんですよ。多分、音楽は前よりさらに好きになったと思います。ここにきて一番色々な音楽を聴く時期に来ているかも。

池永:それは、いいことじゃないですか!

林:音楽は好きになったけれども、聴く音楽が変わってきたかなと。というのも池永さんのオーディナリーミュージック(TBSラジオ)のプレイリストを聴いて、自分が今まで仕入れていない音楽だったんですけど、スッと入ってきたんですよ。

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池永:結構静かめでクラシカルな曲が多かったかな。

林:なんかSNSも窮屈になってきて、自分の中で「耳を塞ぎたいな」って思っていたっていうモードだったのかな。その感覚とあのプレイリストのモードが合致したような気がしていて。

池永:僕もその感じは一緒。不健康な雑音が多い。健康的な雑音は好きなんだけど。

林:それに、前は音源とライヴ遠征費に使っていたお金の分、自分の部屋の音を良くしようとレコードプレーヤーを新調したり(笑)。

池永:僕もちょっとええヘッドフォン買いましたもん(笑)。最近はストリーミングも高音質になってきたし、誰でもいい曲を作れるようになってきていて。だからこそ、オーディオマニアじゃない人まで音質に目を向け始めているのかなと。

林:あとはこれを買ったんですよ。Anna Meredithの『Varmints(LP)』。

池永:Anna Meredithめっちゃいいですよね! 僕も好きです(笑)。

林:後は、池永さんがツイートしていたPanda Bearの『A Day With the Homies(LP)』とかJulia Holter『Aviary(LP)』も。

池永:そうそう、このブワーッと広がっていく感じね。分かるわー!

林:でも、一番聴いたのはOLAFUR ARNALDSの『RE:MEMBER(LP)』です。

池永:これいいよね。分かります。

 

■混沌としたこの時代の感じにフィットしやすい

 

―お2人、かなり共通する感覚を持っているんですね。

林:恐縮です… 池永さんは前のインタビュー(※)で、これまではライヴありきで音楽を作っていたことに気がついたとおっしゃっていましたよね。それを読んでリスナーとしても気がつかされたというか。

池永:元々はライヴをやるために音楽を作っていたつもりは全くなかったんですけど、気づいたら音源リリースしてレコ発してっていうルーティンの中でライヴでの再現性ありきで作っちゃっていた部分があったかなと。

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池永:音源の話で、Amazon HDだと「3Dオーディオ」というのがあるんですよ。専用の音源をAmazon Echoのスピーカーで3Dっぽく再生できるという。あれ一台で3D音響になることはないと思うんですが、amazonが立体音響と高音質で他との差異を図るってのはすごい面白いと思います。

林:それを訊いて思い出したのが、この前ワールズ・エンド・ガール・フレンドの前田さんがTwitterで、NHK Eテレの『落合陽一、オードリー・タン(台湾のIT担当閣僚)に会う』をおすすめされていましたよね。

池永:見た見た! 面白かったなあ。

林:その中でオードリー・タンさんが「コロナ前には戻らないから、人間は変化に対応していくべきだ」とおっしゃっていて。あの対談、久々に明るい未来が見えた番組だったんですよ。音楽もそうなのかもな、と。

池永:あれを見ていてすごくいいなと思ったのが「ほどほどに」っていう言葉で。完全な意見の一致を求めるから違うものを制したくなるし、大体80%あってりゃそれでいいじゃん! ほどほどでやったほうが多様性に繋がるよね、っていう話は良いなーと思った。

林:確かに! ちなみに、これからのライヴとか音楽制作とかってどうなっていくのかとか、考えていることを訊いてもよいですか?

池永:それは…(笑)。今はみんなで密になって楽しむライブができないから、じっくり聴かせるライブがしたいなーとは思ってます。音楽制作は日々感じたことを音楽にしていきたいです。うちの場合インスト音楽なのですごく感情がぼやけちゃうので、混沌としたこの時代の感じにフィットしやすいと思うんですが、如何せんなかなか曲ができない。

 

■立体音響を作りたい

 

池永:後は、立体音響を作りたい。音に包まれているような。ライブはその場所に行って体感する空気感があるけど、音源の空気感はこれからもっと面白いことができそう。

―平面からの脱却と言ってもよいのでは?

池永:そうだね。低音がしっかりしているヘッドフォンがとても身近になったから、次は立体音響が身近になれば音楽も、もっと面白くなると思う。「EXOFIELD」とかサラウンドヘッドフォンも質が上がってきてるみたいだし。あと、もう流石にmp3に飽きてきたのはあるかもしれないね。ライブ以外の音楽がインスタントになり過ぎたのかも。

林:これはすごく失礼な話なんですけれど、配信ライヴって現場のライヴと比べてどうしても印象が薄くなっちゃうなと思っていたところに、あら恋は「配信ライヴは配信ライヴじゃないとできないことをやるんだ」って打ち出していたじゃないですか。

池永:ワンカメノーカットがしたかったというのもあるけどね(笑)。

―配信とライヴの違いって具体的にどういうところなんでしょう?

池永:ライブは演奏者の息遣いとかその場の空気感をみんなで体感するもので、映像はそのライブをどの視点で切り取って、どういう意味合いで編集やスイッチングして物語や意志を詰め込んでいく、音源や映画に近いもの。全くの別物だと思います。例えば、配信でしかできないことといえば、SKY-HIの〈実家ワンマン〉は面白かった!

池永:後ろにお父さんとお母さんがいてね。コールアンドレスポンスを両親に求めた時の、そのほんの少し照れてる感じとか親子の関係性とか物語が垣間見えて、むちゃくちゃよかった! 実家でライブなんて思いついても実現まで辿り着かないもん。カメラのスイッチングも本人が楽器のように扱っていたり、実現させた上にあのクオリティって、ほんとすごいと思った。

林:僕みたいに地方にいて子供もいてってなると、配信でどこのイベントも見られるのはありがたかったりします。

 

■前よりも丁寧に生活をする

 

池永:ちなみに林くんの生活はどう変わったの?

林:前よりも丁寧に生活するようになったような気がします。家をしっかり掃除するようにしたりとか、しっかり寝るようになったりとか。

池永:掃除とか睡眠とか、生活の基礎を大切にすることってすごくいいことですよね!

林:それに合わせて、僕の仕事ってソーシャルディスタンスが取れない仕事なんですよ。緊急事態宣言の時も整骨院って医療機関扱いで、休んでも手当が出なくて。だから、とにかく開け続けるしかなくて。

―そんな状況があったのですね。

林:他の整骨院の人に聞くと経営が厳しくなった人もいるんですけど、僕の場合はそこまでではなかったんですよ。患者さんも変わらず来てくださっていて。それって、この時期に“わざわざ”来てくれたということなので、より丁寧に治さなきゃなと思いました。それと同じで音楽も“ながら聴き”するんじゃなくて、寝る前に今日はこのレコードを1枚1枚丁寧に聴こうと。

池永:今まで流れでやっていたことを、コロナを機にいっぺん自覚してみようというか。やりたいことを見直したというところは共通しますよね。

林:削ぎ落としてシンプルになったからこそ、逆に好きなものをもっと丁寧に好きにやろうと。

池永:それは音楽制作も一緒で。丁寧に好きにやりたい。丁寧にやるとよくわからない箇所が出てきて。だから、「この曲、いい曲なのかな?」くらいの迷ってる方が新しいことできるような気がします。まだ、まとまってないですけどね(笑)。

林:でも、その池永さんのすぐに出すのではなく、感じたものを後から発表できればいいという姿勢はすごいなと感心します。

池永:いやいや、遅いだけです(笑)。やっぱり今、焦っちゃうんですよ。こんな時だからこそ変わらなきゃっていうか。でも、良かったところまで変える必要はないっていうか。そう焦ってもねえ。のんびりもしてられないけど、どっしり良いものを作りたい。聴いていただいている方もそう感じているなら嬉しいですね。

 

■温故知新がキーワード

 

―先ほどオーディオを揃えるという話がありましたが、部屋の状態はあなたの心理と言います。この期間で何か部屋の変化はありましたか?

林:僕はですね、さっきレコードの話もしましたけれど、カセットテープも今熱いなと思っていまして(笑)。調べたら今出ているものと比べても、80年代のものの方が音が良かったりすることもあるみたいで。僕が買ったやつも80年製でした。

池永:そうなんだ! 肩に担ぐようなやつ?

林:そうです! 音楽も昔のいいものに戻っていく感覚も少しあったりします。

池永:最近、温故知新がキーワードかもね。

林:そんな話を80代の祖父に話したら、昔は毎週日曜の午前中はデカい音でレコードを聴くのが習慣だったって言っていて。これって豊かだよなあと。

池永:そうだよね。情報ばかり集めている今と違って、自分の好きな時間をゆっくり過ごすってすごい豊かだよね。

林:池永さんは部屋の変化はありましたか?

池永:俺は植木買った。これはスピーカーの上に置いていて、フッサフサに育ってる。俺の音楽がええから育つんだろうね(笑)。ちょっとだけ枯れてるけど(笑)。本は、中島らもさんの本とかを読んでるかな。学生時代で特に10代の頃によく読んでたんだけど、縁があってまた手にとっていて。

池永:そういう意味では、話がリンクするなあと。昔に帰って新しさを見つけるというか。元々、次は自分の思う東京スケッチみたいな音楽を作りたいなあと思っていたところにコロナがきて。そこで行き着いたのが、アニメだと『機動警察パトレイバー』とか『うる星やつら2』とか、あの時代に描かれていた感覚って今のコロナ禍の東京に通じる部分があるなって思う。

 

■どんな時代であってもそれは変わらないのかな

 

―東京の話が出ましたが、密を避けるという意味では林整骨院などのローカルな場所にこそ、これからの可能性ってあると思うんですよ。

林:うちはかなり換気もできていますし、普通の診療中に演奏している方がいるという形もこれからはありかなと。前に東京の方が栃木に来ておっしゃっていたのは、東京は家と家との感覚が狭く大きい音を出せないそうで。でも、うちでは割と大きい音を出しても大丈夫なので、地方だからこそのメリットというか抜け道もあるのかなと思います。

―元からソーシャルディスタンスが取れていると言えるのかもしれないですよね。あら恋のこれからはどうなっていくのでしょう。

池永: 僕らの育った90年代は体をぶつけ合ってダイブなんかして混沌としたライブがものすごく楽しかったんですが、最近はスマホで撮りながら少し揺れながら見る感じになってきて、それがコロナで配信ライブになって。ライブの楽しみ方の変化順としては真っ当なんだけど、やっぱり僕は圧倒的なものが好きで、それはもみくちゃになる熱狂であっても静かな熱狂であっても、すごいものはすごいでしょ。どんな時代であってもそれは変わらないのかなと思う。

池永:密になって盛り上がるライブは当然したいのですが、例えばクラシックのコンサートみたいにじっくり聴かせるようなライブ演奏を、密になって盛り上がる事のできない今だからやってもいいのかなとか考えたりはします。それこそさっきでてきたようなクラシカルな音楽でも圧倒的な作品だし。

―来月の11月30日(月)には〈Genius P.J’s 20th anniversary vol.2〉に出演されますね。
※感染拡大予防対策を実施の上、入場人数を制限し開催される。

池永:これが人数を減らした上でやる初めてのライヴなんですよ。ほぼ新曲でやりたい。今、頑張ってます。

林:あとまだ伝えたいことがあって、池永さんが劇伴やってらっしゃるドラマ『だから私はメイクする』の1話でボロボロ泣いたんですよ。

池永:ありがとうございます。嬉しい。あれ、面白いよね。

林:僕あまりドラマとかで泣かない方なんですが泣いちゃいました。今って何RTされたとか何いいねされたとかが重要視される世界じゃないですか、でも僕が音楽祭をやったのとも整骨院で施術していることも「自分で自分にいいねって言いたい」というのがあって。あのドラマも、自分が自分に納得するためにメイクするっていう話じゃないですか。

池永:そうそう。僕の場合は、「だから私は音楽をする」ですから(笑)。いろんな事を言われても最終的には自分を突き通すっていうのはやっぱり好き。

―話をまとめる方向に持っていくとどうなるでしょうか(笑)?

林:結局僕が今一番知りたい事って「みんな変わらずやっていますか?」っていうところなんですよ。

―その共通認識を確認していた場所がライヴだったのかもしれないですよね。

林:それです。あら恋って毎回セットリストが違うじゃないですか。その度に、「この曲前はこんな感じじゃなかった!」という発見があって。リスナーは「俺、今こう思ってる」っていう感覚を音楽の中に探していたりすると思うので。僕の場合、それが池永さんで今回話せてそういう発見があって良かったです。

池永:あら恋の音楽で感情が広がってもらえるのは、本当にすごく嬉しいです。一つの音楽で100%じゃなくても80%なんとなく共感できればこんな素晴らしい事はないです。やっぱり一人じゃ寂しいし。これからもしっかりちゃんと作っていくので、宜しくお願いします!


〈Genius P.J’s 20th anniversary vol.2〉

開催日:2020年11月30日(月)@東京・渋谷WWW
チケット:
前売 3,500円-
時間:開場 17:30 / 開演18:30 

=ACT=
Genius P.J’s
あらかじめ決められた恋人たちへ
nego
Tomy Wealth

=チケット予約=
e+ https://eplus.jp/sf/detail/3323960001

Genius P.J’s official shop
herecords.stores.jp

あらかじめ決められた恋人たちへ 公式HP:http://arakajime.main.jp/

林整骨院 公式HP:http://hayashi-seikotsuin.net/