2020年11月14日(土)、東高円寺二万電圧にて、死神紫郎企画「不要不急の音楽」無観客配信公演が開催された。
出演は、ぐしゃ人間、面黒楼卍、後藤まりこアコースティック violence POP、カラビンカ、死神紫郎。
本記事では、出演者全員が「不要不急」というお題に回答を叩き出すようにパフォーマンスをおこなった配信公演をレポートする。
文:ヨコザワカイト

不要不急:どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと(『広辞苑』より) |
気がつけば、令和も2年。平成の死後経過時間は1年と半年。動物が死んだ後におこる現象のことを「死後変化」と呼ぶらしい。平成の死後変化は思いもよらぬ形で不要不急な文化を押しつぶそうとしている。
アルバム『さよなら、平成』で平成に別れを告げた男・死神紫郎は今何を考え、何を表現するのか。本企画「不要不急の音楽」はその一端を知らしめるイベントであろう。

2020年11月14日(土)東京・東高円寺二万電圧より、死神紫郎主催の無観客配信ライヴ「不要不急の音楽」がスタート。無観客とはいえど、私は観客。配信前から死臭、すなわち生の烈度が立ち上るのを感じたのは、その期待値に目を向けたからであろうか。
配信開始から座して待つこと10分。青白い光に照らされ、ぐしゃ人間のライヴがスタート。地獄にBGMが流れているとしたら、ぐしゃ人間はきっとそのプレイリストに入っているだろう。
人間が潰れるときは本当に「ぐしゃ」と音がするのだろうか。ブチブチと歪んだギターと姿形を変え畝るベース、破壊を引き連れるドラム、鬼気迫るボーカル。潰れた人間の、人間性の奥底が見えてくる。
まさに「鬼の形相」を感じさせる気迫。だからこそ、そのずれに“おかしみ”が生まれるのは自然なことだろう。時々挟まれるMCの情緒が不安定で見ていてヒヤヒヤする。
手元に、吉本隆明著『死の位相学』がある。この本には死から生還した人たちの死ぬ間際の光景がいくつも収められている。その中に、膠原病で「自分はもう死ぬんだな」と感じた女の日記が収録されている。その女曰く、“死の瞬間目とか鼻とかがバラバラになって落ちていくのが見えた”という。肉体の風化と同時に「もう一度、生きてみたい」と思ったという。
彼女らの演奏からも、破裂し剥がれ落ちていく肉体の跳躍と同時に強い生への音楽を感じるのであった。
あう(Vo.)をして「お客さんがいないので、深淵をのぞいているよう」。我々はその時点で深淵となることから反抗せねばならないと強く思うのであった。ぐしゃりと握りつぶされても、我々は強度に人間でなければならない。
べたりと置かれた機材のノイズに終幕。素晴らしい演奏だった。
続く、面黒楼卍。めんくろうまんじ、と読むらしい。初見だったが完全に盲点であった。「此の砂漠の最果てに」という歌い始めから、その世界観に完全に見入ってしまった。
鍵盤の上を指が舞う。深く筆を押し付けるように、力強く音楽を紡ぎ出す。これがまた破壊的で美しい。蝕まれる己を中心とした物語世界。その身一つでディストピア的情景を作り出す彼女に圧倒されてしまった。そして彼女は時折ニヤリと笑う。楽しんでいるのだろう。
未チェックな人は是非。これはすごいぞ。
そして、言わずもがなの後藤まりこアコースティック violence POP。
She is music. アコギ一本のパフォーマンス。すうっと肺深く息を吸い込み、生への愛を歌う。生を「なま」と呼ぶのは彼女を表すのによく使える。彼女と観客とが、電子の海を跨いで生で触れる。この日もいつもの特別な日だ。
後藤は歌う時に、何かを探し求めてるような顔をする。それは聴いている僕も同じで。何かを勝手に歌の中に求めて、僕なりに歌を噛み砕いて。前を向く、脇目も振らず全身全霊で進もうと思う。
それは料理しきった世界ではなく、生の音楽だからこそ情動が擦り合わされるのである。昔は破壊こそ剥き出しだっただろうけど、そうではない形を今の彼女は手にしていて、とても上手い。その上で、「パンクは優しい」と歌う彼女。分かるか、パンクは優しいんだ。
ぐしゃ人間のライヴでも感じた死ぬことと笑いと微笑みの隣り合わせ。これがリアルだよなあ、と思った。
そして、白塗り学ラン3人組バンド・カラビンカ。

きっと陰鬱な学生時代のうじうじした感情が湿り尽くして化物になってしまったのだろう。制服もどきの黒色からどうしようもなく湧き立つ樟脳の香。「大好き」が捻れて捻れて捻り切った先の叫び声。
握った拳の爪の跡が一生消えなかったら。隠すように悲しく握り続けて振り回すだろう。それが彼らの音楽。僕らの音楽。
さあ、ここまで「不要不急の音楽」の復讐が続いてきた。音楽なんて全部、不要不急だ。だから良いのだ。不要不急さにこそ音楽の存在価値がある。
ここまで期待値を上げておいて、死神紫郎。そんな心配なんてなんのその。此の大幕を背負って出る覚悟が彼にはあった。

空気を読まず、いや読み切った先に空間を切り裂くような音楽。左手に青い光を右手に赤い光を背負う彼の姿は、生と死の間に立っているかのようだ。
「あなたの栄養になるような音楽を」と彼は言う。そんなサプリメントのように消費しやすい音楽ではないことは彼自信がよく知っているだろう。戯けたように彼がニヤリと笑う。
平成に別れを告げた男は、大きな虚空に目を向け、画面を通して1人1人に目を向け。時代感のない男ではあるが、それでいてどこに立っているような気もしない。ただ1人で立っている。
後半ではルーパーも駆使しまた変わったグルーヴ感に踊りながら「皆さん、とっくに気づいているくせに」と歌う。
此の時期に作った新曲は「人間樹海」。樹海に迷い込むように、我々は人の海に今迷い混んでいるとしたら。漂流のち漂流。
最後の曲は、「牛は屠殺を免れない」。
さて音楽は、不要不急か。
死神紫郎:https://www.46shinigami.work/
ぐしゃ人間:http://www.gusya.net/
面黒楼卍:https://menkuroumanji.jimdofree.com/
後藤まりこアコースティック violence POP:http://510mariko.com/